二人だけの勉強会から

起:NOZOMI(中2)

 来週から中間テストが始まる。前回のテストは各教科、前日に急いで復習をして合計が過去最低点を出してしまった。当然どの教科の追試にも引っかかってしまい、親にこっぴどく叱られた。今回の中間でひどい点数をとると、親に学費を払わないと言われ、今回こそは頑張らないといけない。今日から始めればきっと余裕を持って復習ができると思う。放課後、家で勉強しよう、そう思っていたが家にはうるさい弟がいる。どこで勉強すればいいのだろう。
 そういえば段々コロナが収まってきて学校の図書室が使えるようになったってどっかで聞いたような。よし。そこで勉強してみよう。

承:SACHI(中2)

 放課後、一人で図書室に向かう。友達を誘ってみようと思ったけれど、友達と一緒に勉強しても、あまり集中できずに終わることが目に見えていたので諦めることにした。テストでいい点数を取らないと、せっかくできた数少ない友達を失うことになってしまう。それだけは避けたい。
「ガラガラガラ。」
 図書室の扉を開ける。物音一つ聞こえない。
「誰もいないのかな。」
 そう小声で呟く。机がある方まで歩いていくと、誰かが机に突っ伏して、寝ているのが見えた。誰だろう。起こさないように静かに席に座り、顔を覗いてみる。
「あ。」
 思わず声が漏れた。自分の心臓が早くなっているのを感じる。私の声で少し驚いたのか、その人は眠たそうにゆっくりと目を開けた。

転:HITOMI(高2)

 「おお、ハロー。」
「ごめんなさい、起こしちゃって。」
「ううん、大丈夫。何してたの?」
「自習しようかなと思って。」
 その人は、学年で一番成績の良い南條さん。勉強だけでなく運動もできて美人だから、話していても自然と敬語を使ってしまうし、私には程遠い存在だった。
 隣の隣の隣くらいに座って、自習の準備をはじめていると、
「ねぇ、私も勉強しに来てたから隣すわってもいい?」
 と尋ねてきた。
「あ、どうぞ。」
 南條さんが隣に座る。ちょっと緊張する。でも、今回のテストで失敗はできない。だから隣に誰がいようと集中して勉強しなきゃいけない。数学の問題集を開いて、続きを解き進める。
 隣からは〇をつける音しか聞こえないが、気にしない。
(あー、やばい。この問題全然わかんない。)
 方針もつかめず、書いては消してを繰り返す。ついにシャーペンを動かす手が止まった。
「大丈夫―?手止まってるけど。」
 問題を解きながら声をかけてきた。
「ちょっとわかんなくて。」
「どれ?」
 身を乗り出して、私の問題集を見てきた。問題を指さす。
「あー、これね。教えてあげようか?」
「教えてください!」
 裏紙とペンを持ってきて、何か書き始めた。
「まずこの式を変形するとこうなるじゃん?ここまではわかる?」
「うん。」
「そしたら、この定理を使って、……して、……すればあとはわかる?」
「うん!」
 すごい、この人教えるのもうまい。
「ありがとうございます!わかんないことあったらまた聞いても良い?」
「いいけど、その代わりに敬語は使わないで。なんか距離感じるから!」
「わかった!」
 その後もたまに南條さんに教えてもらいながら自習をした。おかげでめちゃくちゃはかどった。帰り際、
「テスト終わるまで、一緒にここで勉強していかない?」
 と言われてとっても嬉しかった。もちろん!と答えてそれから一週間、南條さんと勉強をし続けた。

結:MISAKI(中2)

 南条さんと放課後一緒に勉強をしているとあっという間に時間がたってしまう。知らないうちに仲良くなって教室でもよく一緒に話して一緒に行動するようになった。
 あっという間にテスト当日になってしまった。テスト用紙が配られる。
「はじめ」
 先生の声がした。紙をめくる音が教室に響く。私はまだ紙をめくらずに深呼吸をした。みんなより一足遅く紙をめくる。名前を書いて試験を始める。最初は基礎的な計算問題。
『落ち着いて解けば間違えないよ、できてるんだし。』
 南条さんの声が頭の中でする。その後は南条さんに教えてもらった問題がたくさん出て、解くことができた。
 私には珍しく最後の大問までたどり着けた。けど、ぜんっぜんわかんない。南条さんに教えてもらったのにはこんな問題なかったし、こんな問題見たこともない。どうやって解けばいいかわかんない。
 カリカリカリカリ。
 皆の鉛筆の音が聞こえる。みんなめっちゃ書いてる。書けてないの私だけ?やばい。
 カチカチカチカチ
 時計の針が進む音が聞こえる。時間だけがどんどんたっていく。落ち着け私。
『わかんない問題があったら飛ばして次の問題やるか見直ししたらいいよ。』
 また南条さんの言葉が頭の中に流れてきた。少し落ち着けた。見直ししなきゃ。
「終わりです。筆記用具を置いてください。」
 終わった。なんとかできたのかな。
「どうだった」
 南条さんが聞いてくる。
「微妙かな。今までよりはできたけど。」
「そっか。最後の問題できた?むずかったんだけど。」
「書いたけどあってないかも」
 南条さんでもできない問題だったんだ。南条さんにはちょっと悪いけどちょっと安心。

 「こないだのテスト返すぞ」
 もう?心の準備が…
「横宮―」
 もう私の番?テストを受け取る。ちらっとテスト用紙を見る。一の位の数字が見えた。七だ。十の位は…八。




 図書館(または図書室)をテーマにしたリレー作文です。

 主人公が南條さんに対してとても素直に勉強を教わることができたのも、学年一の優等生南條さんが自分から気軽に「教えようか?」と声をかけることができたのも、図書室という少し特殊な空間だからこそなのかもしれません。教室だったら、横槍を入れてくる子がいたり、他の友達の目が気になったりして、こうも自然には仲良くなれなかったでしょう。だからこそ、この物語は図書室というテーマを上手に使えていると思いました。
 また『追試に引っかかてしまう主人公』と『美人な上に優等生な南條さん』という対照的な二人を登場人物にする設定も、物語を進める上で効果的でした。ここで面白いのは、このキャラクター設定が、誰か一人の書き手に決められたのではなく、連携の中で生まれていったことです。
 例えば「承」の部分で、南條さんに気づいた時の主人公の反応を示し二人の距離感を描いています。これにより南條さんの「主人公が緊張してしまう誰か」という条件が決まりました。それを受けた「転」で初めて南條さんというキャラクターが姿を現します。つまり「承」では書いている本人もどんなキャラクターになるのか知らないわけで、その決定は「転」に委ねられているのです。この辺りは実にリレー作文らしい連携の妙が感じられる部分で、読んでいて楽しいものでした。

 ところで実際の人生においても、人を成長させてくれる出会いというものがあるものですが、そういう出会いは待っているだけではなかなか訪れないものでもあります。今回の物語を読んでいて、自分も行動パターンを変えてみたくなりました。ちょっと前向きになる力をもらえる物語でした。

塾長

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