一人じゃない

MISAKI(中3)

 やば。これ外した。
 ぴぃぃぃぃぃ。
 審判の吹いた笛の音が体育館いっぱいに響いた。

 シュートファール。まじか。バスケをしてる中で唯一チームメイトからのパスもスクリーンも何もなくただ一人でゴールの前に立ってシュートだけをする。たった一点、されど一点のフリースロー。今ここで、このタイミングで。

 フリースローラインを踏まないように立つ。顔を上げた。まっすぐ前にゴールがある。四・二メートル。審判からボールを受け取った。深呼吸。入れる。二回ドリブルをついた。ボールを持って構えた。ゴールをしっかり見る。不安が頭をよぎった。入らなかったら。そんなこと考えてる場合じゃなかった。あそこ。ボールが手から離れる。ゴールに一直線に吸い込まれていった 。

 一回目は入った。二回目入るかな。いつもどっちか外すのに。汗がじわっと熱かった体を冷やしていく。心臓の動きがどんどん早くなっているように感じた。
 ふいに後ろと横から軽くタッチされる。元から何も乗ってなかったはずの背中が軽くなった気がした。
「ナイスショット」
「入るよ」
「がんば」
「ゆきさん見てるよ。」
 もう最後のが一番意味が分からない。けど肩の力が抜けた。大丈夫だ。一人じゃない。安心する。緊張も不安も全部四人、そしてベンチからかけられた言葉で吹き飛んだ。

 一回目より落ち着いて同じ動作をしてボールを構える。今度は不安なんてなかった。ボールが手から離れる。入る。そう思えた。ボールはゴールに吸い込まれるようにして綺麗に入っていった。




「手」をテーマに書かれた作文です。

 試合中、緊張する主人公にタッチすることで仲間たちが励ます場面があります。そこで書かれた「元から何も乗ってなかったはずの背中が軽くなった気がした。」の一文を読んだ時、ゾクッとしました。昨年たくさん読んだ塾内の作文の中でも、特に印象に残る一文でした。

 人は大人になるにつれて、知らず知らず、色んなものを背負って生きています。責任やら、プライドやら、不安やら、運命やら…。もちろん物理的には何も背負っていないし、気の持ちようによっては、そもそも背負う必要のないものです。そんな何とも形容し難い生きていく中で感じる重石のような感覚を、まだ中3のMISAKIさんが誰に教わることもなく、さらっと書き表してしまったように感じてゾクッとしたのです。正直なところ、僕にはこんな一文書けないと思いました。自分の中にある感覚をこんなにも分かりやすく言葉にするとは!

 他にも試合中の緊迫感とそこからの解放感、仲間との信頼関係など見どころ読みどころが沢山つまった秀作でした。さて、次はどんな作文を書いてくれるのか、今から楽しみです。

塾長

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