SACHI(中1)

 「サー。」
 波の音が聞こえてくる。風が海のにおいを連れてきて、私をせかす。懐かしいにおいと音にひかれ、私は走り出した。真っ青な海が遠く、どこまでも続いている。砂浜に一歩足を踏み出す。さらさらとしている砂の感触がくつ越しに伝わってくる。落ちかけている日の光が海の波に反射してキラキラと光る。灯台の光もピカピカと光る。左右にはどこまでも続いていそうな砂浜。右には富士山。私が二年前に見た景色とほぼ同じ。
「やっぱりここは変わっていないなぁ。」
 思わずそう呟く。世の中がどんなに変わって荒れていても、ここではいつも変わらずゆったりとした波音が聞こえる。そう思い、ほっとする。
 海を後にする時、一度だけ振り返った。波が一瞬、キラッと光ったような気がした。前を向いて歩き出す。また、今度来よう、そう思いながら。



冒頭から波の音(聴覚)、海のにおい(嗅覚)、真っ青な空(視覚)と五感を使った描写で畳み掛け、さらに、くつ越しに伝わる砂の感触(触覚)と続きます。短い文章の中に五感のうちの四つも使い、読む人の感覚を刺激する文章を読んでいるうちに、自分もその場にいるような感覚を得ることができました。また、単に情報が多いだけでなく、擬人法も織り交ぜた語り口は、詩を読んでいるようでもあります。しかし描写の心地よさだけでは終わらず、ちゃんと社会や環境に対する不安も意識しているところに、SACHIさんの成長が感じられました。最後に一度だけ振り返った時に見た光は希望を意味するのでしょうか。その後、前を向いて歩き出す主人公の姿は力強く頼もしくもあります。
取り立てて大きな出来事がなくても読ませてしまう文章力、一瞬の場面を瑞々しく切り取る表現力にはいつもながら感心します。

塾長

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