どこまでも続く桜の花に

起 REIKO(高2)

 デュッセルドルフの街はドイツの中では中くらいの街だ。洋風な建物の方を目指し、緑道を通り抜けると、開き始めた桜に迎えられた。
「グーテンモルゲン!」
 桜に驚いて立ち止まっていたら、お母さんと手を繋いだ小さな男の子が急に話しかけてきた。何を言われ、どう答えれば良いのかわからず、大急ぎでガイドブックを取り出した。
「グーテンモルゲン!」
 私は緊張しながら、ガイドブックにあるカタカナをそのまま読んだ。そして小さな声で
「おはよう。」
 と付け足した。次には何が言われるのかが不安だったが、二人はそのまま微笑んで通り過ぎて行った。最初は、なぜ話しかけてきたのかがわからなかったが、ドイツでは普通らしく、歩いていくうちに通りがかる人みんなから挨拶された。いつしかその挨拶も心地よくなり、私はそのまま人の流れに身を任せながら、どこまでも続く桜の花を楽しんだ。その時、ふと去年の日本の風景を思い出した。

承 OTO(高3)

 あの日は確か春休みの半ば過ぎのことだったと思う。春休み中、一歩も外に出ない私に呆れた母が、近くの総合公園に連れ出してくれたのだった。公園は祭りをやっているらしく、参加客でごった返していた。ライブなんかもやっていて、そこそこ有名なバンドが来ていた。でも興味ないバンドだった。それに人の波に疲れた私は、母と別れて人気の少ない方に足を運ぶ。そこは公園に内接している室内競技場だった。
「なんかやってる」
 私は何気なく中を覗く。
「キュッ、キュ、スパンッッッ!」
 ネットを挟んで二人の選手が向かい合っている。軽やかな身のこなしからは想像のつかないスピードでシャトルが飛び交っている。気がつくと私は満開の桜なんか気にせず、コートに釘付けになっていた。

転 KOTARO(大2)

 突然、強い春風が吹いてきて、桜の花びらが室内競技場の中に入っていった。
「おい!ドア閉め忘れてるよ」
「すいません。忘れてました~」
 さっきまで、ラリーをしていた大学生くらいの男の人が、私の方に走って来た。
「おっ、どうした?中学生?」
 私は何も言えず、その場に立っていることしかできなかった。すると、お兄さんは少しだけ困った顔をしながら、また話しかけてくれた。
「えっと、まあとりあえず入りな」
 そう言って優しい笑顔で、お兄さんは私を運動場の中に入れてくれた。体育館のドアの近くに座り、私はお兄さんたちが行うラリーをひたすら眺めていた。
 三十分くらいして、お兄さんたちは休憩に入った。
「どお、見てるの楽しい?」
 私は、首を縦に振って答えた。すると、お兄さんは笑顔になって私に言った。
「じゃあやってみるか」
 私は、首が取れるんじゃないかというくらい首を横に振ったが、お兄さんは「まあまあ」といった調子で私をコートの中へ入れて、ラケットとシャトルを渡してくれた。

結 KOTA(高3)

 隣でお兄さんがサーブのお手本を見せてくれる。私はその動きを真似てみる、あまりうまくいかない。
「おしい!もう少し腕を下から当ててみて!」
 運動音痴な私にお兄さんたちは嫌な顔一つせず、教えてくれる。お兄さんたちの優しさが今の私には少し辛く感じる。何度もチャレンジしてみるが一度もサーブは入らない、その度にお兄さんたちが励まして、アドバイスをくれる。やっぱり私には何かするのは難しいのかな、お母さんの前で失敗したくないしもうやめよう。お兄さんたちにお礼を言って終わろうとする。
 するとお兄さんが
「さっきあれだけ、真剣に見てくれてたんだ、もったいないから、最後に一回だけやって終わろう!」
 と言ってくれた。最後に一度だけならと思い、お兄さん達が教えてくれたことを一つずつ思い出して、最後の一回を打ってみる。
「スパッ」
 鋭い音が鳴り、その直後に「コン」という音がする。
 決して速くない、綺麗ではない、サーブというにはあまりにも出来が悪いものだ。それでも私の打ったシャトルは相手コートに入っていた。
 サーブが出来た記念としてお兄さん達にジュースをご馳走してもらい。体育館の外へ出る。お兄さん達は
「楽しかった?」
 と笑いながら聞いてきた、私は負けないくらいの満面の笑みと大きな声で
「はい!」
 と答えた。そのさわやかな笑い声は私たちの上にあるどこまでも続く桜の花に届いていた。






 今回ご紹介したのはリレー作文ですが、読んでみてまず感じたのは、まるで一人の人の手で書かれた物語のようだということでした。実はそれはなかなか難しいことなのです。起で書かれている主人公の雰囲気を大切に守りつつ、物語も動かさないといけないわけですから。少し内気な少女がたまたま出会ったお兄さん達との触れ合いを通して、一歩前に進むきっかけを掴む承転結の回想部分と、そんな彼女が今では海外に一人旅をするまでに心が成長している起の部分のバランスが絶妙でした。また全編通して落ち着きのある安定した語り口調が続き、そのことも書き手が変わったことを気にさせなかった理由の一つでしょう。
 ドイツの桜と日本の桜で1年という時を感じさせながら、静かに、でもしっかりと成長していく一人の少女の姿が印象的な素敵な作品でした。

塾長

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