前向きに
HITOMI(高1)
高一になる春休み。高校生になって何か変わるのかはわからないが忙しくなるらしいので収納や本棚の整理整頓をするように言われた。特にやることもないし、持ち物が増えてから掃除するのは面倒なので部屋の掃除を始めた。
「いる」とか「いらない」で区別して、必要最低限にモノを減らしていく。ただそれだけのことである。でも、モノへの執着が強くて、捨てるにも捨てきれないモノばっかりで作業が進まない。それに、この一年でしまい込んだプリントや模試の結果の数々も発掘してしまった。
「あーもういやだ!」
と言って、大量のプリントを撒き散らした。
我に返って周りを見ると、余計に散らかってしまったことに気づいた。自業自得。短くため息をついて口を尖らせ、部屋中のプリントを回収した。床に座ったところで、くしゃみが止まらなくなった。プリントの埃が舞い上がって、部屋中がほこりっぽくなっている。窓を見ると、天気が良かった。空気を入れ換えたかったので、カーテンを全開にして、窓を開けた。
(気持ちいい。)新鮮な空気を取り込んで、すっきりした気持ちになった。生温かい春の風が網戸を通して伝わってくる。空気と気分をリフレッシュさせたところで、作業を再開した。
お部屋がずいぶん快適になっている。プリントの収拾をつけて、収納と本棚の整理整頓を終わらせた。
換気をして外の風を送るだけで、家での作業が捗った。気持ちがどんどん上がった私は、クローゼットの掃除に、衣替えまでやった。春の訪れを感じながら、新生活に向けて準備をする。これからたくさんの試練や挫折が待ち受けているかもしれないけど、何だってできそうな気がした。
今回ご紹介した作文も書かれてからずいぶん時間が経ってしまったものですが、掲載させていただきました。ご了承ください。
モノを捨てることは案外大変で、この作文を読んで「同じだなぁ」と感じる方も多いのではないでしょうか。僕自身、掃除中に懐かしい何かに再会する度に作業が止まり、気づけばかえって部屋が散らかっているなんてことがよくあります。このような多くの人が共通に持っている感覚や経験を見つけてきて文章に加えることは、読む人に共感してもらいやすくなる上手な方法です。もっとも、読んでしまえばよくある話と思えることでも、それを見つけてくることは簡単ではありません。ですからこの作文でのHITOMIさんの目の付け所はとても良かったと思います。
後半の風を迎え入れることで部屋の空気と同時に気分までリフレッシュする場面では、主人公の気持ちの振れ幅の大きさが描かれ、中学生から高校生へ成長していく時期のちょっとヒリヒリするような気分がよく表されています。また、プリントの埃でくしゃみが止まらなくなることを挿入したことで、主人公の気持ちが窓の外に向かう流れがとても自然に書かれていました。ひとつの部屋にいながら場面を大きく転換させるための良い繋ぎになっていて上手いなぁと思いました。
塾長