あの頃の味
CHIKARA君(執筆当時中3)
もう十一月も後半。日に日に肌寒さが増し空気も冬っぽくなって来た。
コートを羽織り、街を歩く人々は、ベンチに腰掛けた僕を羨ましそうに見つめていた。いや、僕が持っているおでんを見つめていたのだった。
ふたを開けると、真っ白な湯気とともに、出汁のいい香りがふわっと漂ってきた。容器の中にはとても熱そうな大根が一切れプカプカと浮かんでいた。
僕は急に懐かしい気持ちになった。小学生の頃、共働きの両親は帰りがいつも遅かったため、ほぼ毎日祖母の家へ遊びに行っていた。冬になると、祖母は、おやつの代わりによくおでんを出してくれた。出汁がよく染み込んだ熱々おでんはとてもおいしかった。
おでんを食べるのは久しぶりだ。早く食べたくてしょうがない。大根を切ろうとすると、はしがスーッと入っていった。ホクホク熱々の大根は、あの頃と同じように、出汁がよく染み込んでいた。

解説
過去の「ほろり賞」作品を紹介するシリーズ第二弾は、対面で授業をしていた頃の思い出のシーンが描かれたもの。とはいっても、特別なシーンではなく、当時の授業としては当たり前の、いつものお散歩作文です。
この作品が書かれたある寒い日、作文クラスでは、散歩をして、途中のコンビニで各自おでんを一つだけ買って、外のベンチに座って食べてみました。(まだコロナなんてない頃で、この頃はよく外で「ガリガリくん」やら「肉まん」やらを食べては、その温度や食感を作文にしていました。)この作品は、その時のことを自由に短い文章で書いてみるという課題に対して書かれたものです。
日常のたわいもない場面を、さりげなく、柔らかく、どこか懐かしい、素敵なワンシーンに変えてくれるCHIKARA君の文章力や話題の広げ方にまず感心しました。真っ白な湯気、出汁の香り、味、温度……。短い中にも五感をたっぷり使って書かれた文章からは、ちから君の豊かな感受性、彼の生い立ち、彼の持つ様々な要素が伝わってきます。おまけに「大根を切ろうとすると、はしがスーッと入っていった。」というように、おでんに対する繊細な描写も含まれ、彼の表現力の高さも感じられました。読後、おでんを通して彼が書いてくれた、おばあさまの優しさや、その優しさをきちんと理解しながら成長した現在のちから君の人柄が、読んでいる僕の心に温かく染み込んできました。おでんに負けないくらい、この作文もとっても良い味出ています。
塾長
前回の『ほろり賞』紹介はこちら:大丈夫|Misatoさん
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