子どものおねがい
YUI(小5)

ポトリ。
「待って!待って!」

「なに?さっさと行くよ!」
うわっ、うわ~。

男の子はしょんぼりとして家の外を見ています。
「お気に入りの世界で一つしかない、とってもめずらしい手ぶくろなのに。」

なんと、あのとき男の子が落としたのは、おじいちゃんがくれた世界でたった一つの手ぶくろだったのです。もらったのは、昨年のクリスマスでした。

「わあ!今年はプレゼントがたっっくさんある!」
「おじいちゃんからもプレゼントだ。手あみの手ぶくろだ。とってもめずらしいものだからなくすんじゃないぞ。もしなくしたら、悪魔の子どもに連れ去られてしまうからな。」
「また~。」

「このままじゃ、悪魔の子どもに連れ去られちゃう!」
「お母さん!ちょっと外に行ってくるね!」
「ん〜ないな〜。」
もしかしたら悪魔の子に取られちゃったのかも!やばいやばい!
「痛っ!」
あー、もう痛いな。

「こんにちは!」
「こんにちは!君、どうしたの?まさか悪魔の手下?」
「そんなわけないよ、ぼくはみんなのお友達だよ!あ、そうだ!君、ほしいものはある?」
「えーっとね、とってもめずらしい赤色の手ぶくろ!」
あ、もうやばい!
「じゃあ、急いでるから!」
「住んでるところは?」
「ここの山の近く!」
「ただいまー!」
「おかえり!明日はクリスマスね。」

「じゃ、ふろに入って寝てね〜!」
「ん、おやすみ〜。」
さてと、サンタさんのおもてなしターイム!クッキーをテーブルの上に置いて〜。牛乳も置いて〜。完成!来てくれるかな〜。
「わ!なくなってる。」
少し下がった靴下をのぞき込むと……。
「ありがとうサンタさん!」

解説
4枚のイラストを元に物語を作る、という課題。
もちろん、テーマはクリスマスです。
絵の順番は自由。
絵本の原作を書くつもりで、あたたかい物語を考えてもらいました。
今回の課題には、もう一つ小さなおまけのルールがありました。
それは、
「もし挿絵を増やしたい場合は、その場面を言葉で説明してください。そうしたら、追加の挿絵を用意します」
というものです。
もっとも、こうしたルールを用意しても、実際に追加のリクエストが来ることはほとんどありません。
ところがYUIさんは、唯一そのリクエストをくれました。
しかも――5枚も。
これは、嬉しい誤算でした。
入塾してまだ半年足らずとは思えない、書くことへの積極性。
頭の中で場面がはっきりと浮かんでいなければ、ここまで具体的なリクエストはできません。
挿絵が増えるということは、
YUIさんの中で、物語の世界がより立体的に広がっている証拠です。
与えられた4枚のイラストから想像が膨らみ、
その想像がさらに広がり、
新しい場面となって文章になっていく。
今まさに、文章を書くうえでとても貴重な時期を過ごしてくれているのだと感じました。
物語自体も、とても子どもらしい純粋さに満ちています。
主人公は、おじいちゃんの言葉を疑うことなく信じています。
「とってもめずらしい手ぶくろだから、なくしたら悪魔の子どもに連れ去られてしまう」
その言葉を本気で受け止め、
焦り、
小人を見れば「悪魔の手下かもしれない」と疑ってしまう。
けれど、その展開がどこかユーモラスで、自然に読めてしまうのは、
書いている本人もまた、負けず劣らずの純粋さを持ち合わせているからかもしれません。
YUIさんは、
僕ら大人がいつの間にか手放してしまった
「信じる力」や「想像をまっすぐ形にする力」を、
まだちゃんと持っているのだと思います。
最後の挿絵は、物語の結末のあと、
余韻の中でそっと見てもらえる位置に置きました。
サンタさんのために用意したクッキーと牛乳が少し減っていて、
靴下の中には、そっと手ぶくろが入っている。
その静かな一枚も含めて、
この作品は、YUIさん自身の創作の一部です。
塾長
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