小人さんと手袋
SACHI(高2)

ある日の晩、街はイルミネーションの光でやさしく染まり、人々の笑い声があちこちから聞こえていました。
「手袋どこいったんだろう。」
男の子は窓から外を眺めながらそうつぶやきました。
手袋を探しに、去年おばあちゃんが買ってくれたコートをはおって、家を出ました。外は思ったより寒く、白くなった息は空に溶けていきました。男の子はコートのポケットに手を入れて、通りを歩きはじめました。

商店街の前まで来ると、小さな影がひとつ、辺りをうろうろしているのが見えました。近づいてみると、それは小さな子どもでした。けれど普通の子どもとは少し違います。くつはつま先がくるんと曲がり、赤いサンタ帽子は体に対して大きすぎて、ほっぺが隠れそうなくらいでした。
「大丈夫?」
男の子が声をかけると、その子はゆっくり顔を上げて、
「うん。大丈夫。お迎え待ってるの。」
と言いました。よく見ると、手が真っ赤になっています。男の子はポケットから手を出し、迷わずその子の手を握りました。その子は目を丸くして、その後にっこりと微笑みました。そして
「あったかい。ありがとう。」
と小さくつぶやきました。その瞬間、男の子の胸の奥がぽっとあたたかくなりました。どうしてかわからないけれど、この子の笑顔を見ていると、寒ささえどこかに消えていくような気がしたのです。
2人で並びながら雪をながめていると、その小さな子が突然話し始めました。
「僕ね、サンタさんと一緒にみんなで住んでる小人なの。」
男の子はびっくりして、思わず目をぱちぱちさせて言いました。
「サンタさん? 本当に?」
小人さんはうれしそうに笑い、大きく頷きます。帽子の先がぴょこんと揺れました。小人さんは
「ほら。」
と言うと空を指差します。そこにはたくさんの小人を引き連れ、そりに乗ったサンタさんがいました。小人さんは、
「僕帰らなきゃ。クリスマス楽しく過ごしてね。」
そう言うと、そりへと飛んで行きました。

小人さんを見送った後、雪の上で何かがふわりと光りました。光ったところを見に行くと、なんと探していた手袋があったのです。拾い上げると雪の上にあったはずなのに少し温かくなっていました。男の子は嬉しそうに手袋をはめました。
「ん?」
指先に何かが当たりました。手袋の中にはひとつの飴が入っています。すぐに小人さんが入れたのだとわかりました。
「小人さん、ありがとう。」
男の子はそう空に向かって言いました。

家に帰ったらおばあちゃんが暖炉の前で待ってました。
「寒かったでしょう?」
そう言って手を広げました。おばあちゃんの手を握ると冷え切っていた手がほわりと温かくなりました。男の子はさっきの小人さんを思い出しました。サンタさんと並んでるその子を思い浮かべて
「ふふっ」
と笑みをこぼして、
「ねえねえ。今日ね、外で小人さんに出会ったの。」
そう話し始めました。
解説
4枚のイラストを元に物語を作るという課題。もちろんクリスマスを意識して書いてもらいました。絵の順番は自由に変えて良いルールのもと、絵本の原作を書くように、あたたかい物語を創ってくれました。
物語のラストで、主人公の男の子が今日の出来事をおばあちゃんに話し始める場面は、読者にやさしい余韻を残します。
その余韻によって、物語全体が持つ温もりが、もう一度こちらに伝わってくるように感じました。
この物語の温かさを伝えているのは、「手」です。
主人公の男の子、小人さん、そしておばあちゃん。
それぞれの優しさが、手の温かさという形で、静かにつながっていきます。
他者への思いやりが、言葉ではなく「触れること」で伝わっていく描写は、とても想像しやすく、それでいて決してありふれたものではありません。
厳しい現実の中で暮らす私たちだからこそ、この世界のやさしさは、いっそう美しく、尊いものに感じられます。
この作品には、もう一つ大きな魅力があります。それは、情景描写の繊細さです。
「外は思ったより寒く、白くなった息は空に溶けていきました。」
「くつはつま先がくるんと曲がり、赤いサンタ帽子は体に対して大きすぎて――」
こうした一つひとつの描写が、イラスト以上に情景をありありと想像させてくれます。
物語を読み進めるうちに、僕はふと、空を見上げたくなりました。
自分の吐く白い息を、空に溶かして見送ってみたくなったのです。
もちろん、僕が見上げる空にサンタさんや小人たちはいません。
それでも、ほんの少し上を向くだけで、心があたたかくなる気がしました。
もしこの物語を読んだ誰かが、
俯きがちだった視線を、ほんの一瞬でも空へ向けることができたなら。
それはきっと、この物語が持つ、静かでやさしい力のおかげなのだと思います。
塾長
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