雪と手袋、ないしょの冒険
Misaki(高2)

雪がしんしんと降っている。外には誰もいない。足跡一つない雪の上に赤い手袋がぽつんと片方だけ、寂しそうに落ちている。

早く雪やまないかな。お母さんに雪がやむまでは危ないから家にいなさいと言われてしまった。窓の外を眺めてワクワクしながら雪がやんだら何をしようかと考える。雪だるま作ろうか。雪合戦もしたいな。通りの真ん中に赤い手袋が落ちてる。誰のだろう。拾ってあげようかな。でもまだ雪降ってるしな。持ち主の人困るかな。
お母さん何してるかな。よし。ソファで寝てる。今がチャンスだ。手袋拾うだけ。手袋拾うだけ。こっそり上着を取って音が鳴らないように玄関の扉を開ける。

外に出て手袋を拾う。おっきいな。大人の手袋かな。どうしよう。家に持って帰るかな。交番に届けに行った方がいいのかな。
「その手袋の持ち主知ってるよ」
下の方から声がする。下を見るとサンタの帽子をかぶった小さな人が立ってこっちを見ている。
「持ち主ってだれ」
「あそこのおうちのお爺さんだよ」
「届けに行こうかな」
「それがいいよ。片方だけ無くて困ってたから。」

ピンポーン
「はい。どちら様」
「落ちてた手袋届けに来ました」
「おぉ。探してたんだ。今ドアを開けるね」
ガチャ
「ありがとうね。さあ中に入って」
「これおじいさんの手袋ですか」
「そうそう。これこれ、探してたんだ。ありがとうね。ちょっと待っててね」
「はい」
「これ、お礼にあげるよ。中にお菓子とみかんが入っているからね。美味しく食べてね」
「ありがとうございます」
「ほんとに今日はありがとうね。また遊びにおいで」
「ありがとうございます。また来ます」
お母さん起きちゃったかな。外出てたから怒られちゃうかな。家のドアを音がしないようにこっそり開ける。リビングのソファをのぞくとお母さんがまだぐっすり寝てる。よかった。このお菓子とみかんは隠しておこう。一人でこっそり食べよう。今日のことは秘密にしておこう。ちょっと冒険してきたみたいで楽しかった。
解説
4枚のイラストを元に物語を作るという課題。もちろんクリスマスを意識して書いてもらいました。
絵の順番は自由に変えて良いルールのもと、絵本の原作を書くように、あたたかい物語を創ってくれました。
物語の始まりは、雪がしんしんと降る誰もいない世界。
静かに物語が幕を開けます。
そんな静かな世界とは対照的な主人公の男の子。
彼の持つ好奇心、冒険心は、お母さんからの言いつけがあっても、ワクワクには勝てません。
お母さんがうとうとしている間に、そうっと扉を開けて出ていく様子が愛らしいですね。
3枚目の、小人のような小さな人がサンタの帽子をかぶっていること、
そして手袋の持ち主のお爺さんを知っていることだけで、
読み手はサンタクロースを勝手に想像してしまいます。
果たしてお爺さんに会いにいくと……
お礼にくれたのは、みかんとお菓子。
しかも、「ほんとに今日はありがとうね。また遊びにおいで」って、
え? サンタじゃないの?
その「?」な気持ちがかえって余韻になって、その後のクリスマスを想像してしまいます。
全てをはっきり書くわけでもなく、
不思議な気持ちは不思議なまま、秘密は秘密のまま。
幼い男の子の一人語りだからこそ、その曖昧さが、
クリスマスの絵本として暖かくて柔らかい世界を作り上げているように感じます。
塾長
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