冷たいのに温かい

HIDEHIRO(高1)

 ピロン、今日の課題に目を背けてベッドに入ろうとした時、急にスマホが鳴った。部屋の電気をつけてから通知を見てみると後輩からの連絡だった。『今受験勉強辛くて、先輩どうやって乗り切りました?』書かれているのはそれだけだったが、それだけで彼の辛さを画面越しに感じる。正直僕は高校受験を推薦入試で合格したため、去年の今頃はすでに他の受験生を横目に遊び呆けていた。その為一般入試のアドバイスは僕にはできない、だが今この場ではそんな事言えない。そのため僕はある策を講じることにした。
 後輩からのLINEに返信して、冷蔵庫から物を取り出す。続けて後輩に少しの間外に出るように指示する。家が近くなので良かった。

 数分後、家の前にいる後輩を確認して声をかける。後輩は前に見た時より目のクマが酷くどこかやつれていて、いかに彼が必死に頑張っているのかがわかる。
「お疲れ様これ飲んで頑張れよ!」      
 そう言いながら僕は家から持ってきたエナジードリンクを後輩に手渡す。
「最後まで諦めんなよ!」  
 さっきまで冷蔵庫で保管していたのと冬で外が寒いのでエナジードリンクは氷のように冷たかった。
「ありがとうございます。」  
 顔がほんの少し明るくなり彼はそれをしっかり受け取り握りしめていた。

「受験終わったらまた遊び行こうな!」
「もちろん!」  
 そう言って帰る彼の背中は来た時に比べて少し姿勢が伸びてどこか自信に満ちている様に感じた。その姿は夜なのにとても眩しく感じた。僕ももうちょっと課題頑張らなきゃな、そんな事を思いながら僕も机に戻る。

スマホ

解説

「誰かを励ましたり、元気づけたりした場面を書いてください。」という課題に対して書かれた作文です。

 今回の課題では、誰かを元気づけるのにどんな言葉をかけるのか?あるいは言葉をかける代わりに何をするのか?自分ならどうするか、どうしてほしいかについて考え、物語形式で書いてもらいました。HIDEHIRO君が見つけた答えは「行動すること」でした。

 文中、主人公はスマホを通じて後輩に声をかけるだけでは足りないと考え、直接会ってエナジードリンクを渡します。確かに、電話でもメールでも応援されるのは嬉しいことかもしれませんが、自分のために誰かがわざわざ動いてくれて、しかも応援の気持ちを込めたエナジードリンクまで手渡してくれるとしたら、そのありがたさは格別です。そして行動を伴う言葉は効果抜群です。口先だけの励ましが逆効果になるのとは違い、ここでの主人公の言葉は後輩君の心にきちんと届いたことでしょう。

 そんな後輩君の変化が描かれた部分を読むと、その効果の大きさがよく分かります。特に、客観的描写と主観的な判断をセットにして書いてくれた部分は、より分かりやすかったです。例えば、客観的な見た目「目のクマが酷くやつれていて」→主観的な判断「彼は必死に頑張っているのだ!」、「背中は来た時に比べて少し姿勢が伸びて」→「自信に満ちている」の部分です。これらには、主人公が何を見て、どう感じたかが合わせて書かれています。文学作品であれば、あるいは客観的な描写だけを見せて、登場人物が感じたことまではあえて書かず、読者の想像や判断に委ねる方法もあります。しかし今回は、エピソードを通して自分の考えを明確に伝える必要がある課題だったので、この書き方は良かったと思います。

 さて最後に余談ですが、このようにきちんと課題に答えてくれた作文でしたが、実は課題に対する答えとは少し違うところに僕はこの作文の一番の魅力を感じました。それは

 さっきまで冷蔵庫で保管していたのと冬で外が寒いのでエナジードリンクは氷のように冷たかった。
「ありがとうございます。」  
 顔がほんの少し明るくなり彼はそれをしっかり受け取り握りしめていた。

の部分です。ここで渡されたエナジードリンクはキンキンに冷えているのです。なのに、それが優しく後輩君の心を温めてしまうというギャップにやられました。「もう冷たすぎて、あったかいっす、先輩!」なんて声が聞こえてきそうなのに、ここは客観的描写にとどめて、後輩君には何も台詞を言わせず、ただ『それをしっかり受け取り握りしめ』させておいたのも憎い演出です。一番温かい場面に一番冷たいものを持ってくるクライマックス、素敵でした。

塾長

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