私が進む道
AN(小6)
私は今、初詣の列に並んでいる。私の足は、もう既に疲れきっていた。私は周りを見渡す。人々の顔は、期待と疲れが入り混じっていた。寒さがじわじわと身に染みる中、手元のスマートフォンを取り出し、時間を確認する。もうすでに1時間以上待っている。初詣は大切な行事だと分かっているが、こんなにも待たされるとは思わなかった。
列は進む気配がなく、前の人たちも皆、同じように疲れた表情をしている。
すると、急に
「今年こそはいい年にしような!」
と父が言った。私も思わず笑顔になった。少しずつ、待つことの苦痛が和らいでいく。願い事を考えたり、今年の目標を話し合ったりしているうちに、列は徐々に進み始めた。ここまでで、待ち時間は長かったけれど、こうして、家族と一緒に過ごすことができて、少し幸せだ。
新しい年の始まりを、心から楽しみにしながら、列は少しずつ進んで行く。
解説
この作文は年明け2週目の授業で「今年の初〇〇について書いてください」という課題に対して書かれたものです。ANさんは初詣について書いてくれました。
前半は、初詣の列の中、主人公も周りの人々も寒さと待ち時間の長さに疲れ切っている場面から始まります。寒い中で参拝客が静かに長い列を作るのは、いかにも日本の初詣らしい光景ですが、楽しいものではありません。それだけに前半を読んで、『あれ大変だよね、共感しかない!』なんて声も聞かれました。ついつい時間を確認してしまう様子や、周りの人々の疲れた表情など具体的な描写がより想像力を刺激してくれます。お正月の作文だからといって楽しい場面だけを書くのではなく、前向きな形で文章を終わらせることから逆算して、前半をネガティブな描写から入ることで、後半をより活かすことを狙った書き方になっています。上手いです!成長したなぁ。
後半のポイントは、結末が前向きなものと決まっているとして、どのようにして前半の雰囲気をそこに持っていくかということでした。疲れているように見える人々も、内心ではお祝い事にウキウキしているはずだし、気持ちを新たに出来るお正月にワクワクもしているはずです。きっかけさえあれば、ムードは一変してお祝いムードにだってなれるのです。ANさんはそのきっかけとして、お父さんの「今年こそはいい年にしような!」の一言を使いました。この一言を境に、見事に空気は陰から陽に転換していきます。起承転結を使って書いた年末の作文練習の良い効果がもう出ているのかと思うくらい、見事なストーリー上の転換点をANさんは用意してくれました。
主人公に言わせたい、たった一言のために、長編小説を書く作家がいるくらい、作者の思いのこもったセリフには力があります。まだそこまでは教えていないのですが、もう知っているかのように大切な場面で効果的なセリフを書いてくれたところに、ANさんの成長とセンスの良さを感じました。
塾長
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