ポンコツサンタ

SACHI(高1)

 朝学校に行くとプレゼントとサンタさんの話で持ちきりだった。それも当然だ。昨日はクリスマスだったから。誰もが心待ちにする特別な日。もちろん私も大好きだ。世界が綺麗に飾りつけられ、きらきらと光る。幸運なことに、昨日は雪も降った。粉雪が舞う中、腕を組んで歩く男女やきゃーきゃー叫びながらあたりを子供のように走り回る学生が大勢いた。昨日一日、みんなが笑顔だった。私もイルミネーションの下で友達と何時間もしゃべって、ワッフル屋やクレープ屋など駅前に立ち並ぶお店で食べ歩きした。盛り上がりすぎて帰るのが遅くなって親に怒られたけど
「そんなことよりはやくケーキ食べよ。」
 笑顔でそう言うと鬼のようだったお母さんもつられて笑った。みんなが幸せになるクリスマスの魔法だ。

 「あんた何にこにこしてんの。」
 友達のまゆの声で我にかえる。
「昨日のケーキのこと考えてた。で、なんだっけ?」
「どんだけ食い意地張ってんの。おもろすぎ。昨日さ、サンタさんに会いたくて徹夜したからまじねむいって話。」
「え、会えたの?」
「うん。会えた会えた。なんかさ。」
 そうまゆが言いかけた瞬間チャイムが鳴って先生が入ってきた。
「席つけー。」
「じゃあ、後で。」
 そう言ってまゆは自分の席に戻って行った。

 結局話す時間もなく、放課後になった。
「起立。気をつけ。さようなら。」
 挨拶が終わるとすぐにまゆのもとへ駆け寄った。
「まゆー。今日一緒に帰れる?」
「うん。帰ろ。」
 荷物をまとめて教室を出る。校門を出て歩き出す。冷たい風がほおに刺さる。
「寒っ。」
 マフラーに顔をうずめる。マフラーは冬の学生の味方だ。なんせ寝られるくらいあったかい。
「あ、そういえばさ、サンタさんどうだったの。」
「サンタさんはね、なんか思ったより普通の服だったよ。確かに赤と白だし白髭生えてたけど。普通の人でも買えそうな服着てた。」
「へー。意外かも。」
「でしょ。なんかもっといわゆるサンタみたいな服着てると思ってた。」
「私も。会いたかったなサンタさん。まだ居たりしないかな。」
「さすがにもう帰ったでしょ。」
「置いてかれてまだ1人残されてたりしないかな。」
「えー。ないでしょそんなこと。だってサンタさんだよ?そんなポンコツサンタいないって。」
 そんなことを話していると友達の家の前に着いた。
「ばいばーい。」
 友達と別れて駅の方へと向かう。

 ふと時計を見ると、いつも乗る電車が来る五分前だった。今日は近道で行こう。ひとけの少ないこの道は冬だと暗くて少し怖い。でも仕方ない。道に入るといつもと違い、前に人がいた。赤と白の服を着て、なんだかトボトボ歩いている。ん?赤と白の服?思わず走り出す。
「あのー。」
 話しかけるとサンタさん(仮)は飛び上がって何かを落とした。拾ってみるとスマホだった。サンタさんってスマホ使うんだ。あ、まだサンタか分かんないんだった。スマホを渡しながら話しかける。
「サンタさんですか?それで仲間においてかれたとかだったりします?」
 私のその言葉を聞いた瞬間、サンタさん(仮)の目がどんどん大きくなった。
「え、なんで。え、え?」
 この感じだと(仮)じゃなくてほんとにサンタさんだ。
「いやさっき、友達とそんな感じの話してたんですよ。サンタさんまだいないかなーって。そしたらたまたま。」
「いや僕、まだ新入りなもんで。帰りのトナカイに乗り忘れてしまって。サンタっておじいちゃんのイメージあると思うんですけど、それはベテランの方々で。下っ端は若いんです。あー帰ったら怒られる。あ、でも高齢化進んでるんですよサンタの世界でも。って何話してんだ僕。なんかすみません。」
 ワタワタしながら早口で話すサンタさんが面白くて思わず吹き出す。まゆ。ポンコツサンタ発見したよ。
「帰りのトナカイってやつは次いつ来るんですか?」
 笑いを堪えながらそう聞く。笑いすぎてお腹痛い。
「サンタの人数確認終わったらだから1、2週間後だと思います。」
 私に伝えて事実を再認識したのか、サンタさんの顔が青ざめた。どうしようどうしようと騒ぐサンタさんがあまりにも面白いから
「うちの家来ます?お母さんがいいって言ったらだけど。」
 と言った。サンタさんは思考停止したように固まった。目が点になるとはこういう表情のことを言うんだろう。数秒間フリーズした後、顔をパーッと明るくさせて
「いいんですか?」
 と言った。もし犬だったらしっぽをぶんぶん振っていただろう。犬みたいだなあこの人。サンタさんの期待の眼差しを感じながら、私はお母さんに電話をかけた。
「お母さーん。家にサンタさん連れてっていい?」
「は?何言ってんの。」
 とお母さん。当然のリアクションだ。
「なんか道で迷子のサンタさん見つけたの。後で説明するからさ、一旦家に連れてっていい?」
「全然意味わかんないけどとりあえずいいよ。」
 よし。
「いいって言われましたよー。家行きましょ。」
 とサンタさんに声をかけた。

 「ただいまー。」
 ドアを開けると、お母さんが目の前に立っていた。
「え?この人サンタさん?」
 おかえりも言わずにお母さんはそう言った。まるで私が見えていないかのようにお母さんの目はサンタさんに釘付けだ。申し訳なさそうに
「ご期待に沿えずすいません。」
 とサンタさん。
「あ、いや、別に大丈夫です。」
 と慌てて母がそうつけたす。なんだこの会話。私はぷっと吹き出す。
「ここ寒いからリビング行こう。そこで話すから。」
 私はそういい、2人をリビングに連れていった。ソファに座って朝からのことをお母さんに話した。
「ってことだから、まゆにLINEしたいの。2人で話してて。あ、でもその前にツーショ撮りたい。サンタさんいいですか?」
 サンタさんはこくっと頷いた。写真を撮ると私は自分の部屋に駆け込んだ。さっそくまゆにツーショを送る。すぐ既読がついた。さすがまゆ。返信を待っていると、電話がかかってきた。
「は?待ってどういうこと?え、私が会ったサンタさんなんだけど。てかそこきさきんちじゃん。」
「いやなんか道で会って、ほんとに帰り損ねたサンタさんだったからうちに連れてきた。」
「ほんとに居たんだ。ポンコツサンタさん。会いたいんだけどきさきんち行っていい?」
「1、2週間いるらしいから明日来なよ。土曜だし空いてるでしょ?」
「うん。暇。じゃあまた明日ね。」
「うん。ばいばーい。」
 電話を切ると自分の部屋から顔を出して
「お母さーん。明日まゆ来るってー。サンタさん見に。」
 と叫んだ。




 クリスマスに向けて「サンタクロースがいる世界観のもとでハッピーエンドの物語を書く。また読者の対象年齢を自分で決めて書く」と言う条件で書いてもらいました。
 SACHIさんは対象を中高生として書いてくれました。

 悪い人も不機嫌な人も登場しないという、まさに『クリスマスの魔法』がかかったような世界でありながら、実はサンタさんが存在すること以外はなんの変哲もない日常の中で物語は進行していきます。おまけに舞台はクリスマスがすでに終わった次に日です。そんな設定に少し肩の力が抜けたような心地よさを感じました。一見、日常のようなムードが漂っているので、主人公とお母さん、友人との会話も違和感なく読めます。そこに、手の届かない幻のような存在ではなく、ポンコツすぎて助けてあげたくなるようなサンタを登場させるという、現実(スーパーマン的な人はいない)と非現実(でもサンタはいる)のバランス感覚も絶妙でした。

 また、物語全体に穏やかで幸せなムードが溢れているため、サンタさんがいくら困っていても安心して見ていられるし、彼の災難を笑ってしまうこともできました。この物語が持つ、絶対みんな幸せになるだろうという安心感は、多くの不安を抱えて暮らしている僕らには、そのこと自体が魅力になっていると思いました。また、こういう物語が読みたいなぁ。

塾長

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