珍しく焦った日

AYANE(中2)※

 今日は母の同僚の旦那様のお通夜の日だ。母は仕事が終わってからそのままお通夜に行った。一日前に、帰るの七時半になりそう、と言っていたので一応頭に入れておいた。
 久しぶりに夕飯を作る気になった。お腹すいたら食べてていいよ、と言われていたのでコンソメスープを作ることにした。すると親から突然「夕飯どうする」と連絡が来た。僕が「コンソメスープ作る予定」と送ると、母から「なんか買ってこうか」と送られてきた。でも、すぐ後に「あー荷物重いから無理だ」と送られてきた。え、荷物多いんだ(勘違い)。
 駅まで迎えに行くかと決心し、学校のジャージの半ズボンを黒い長ズボンに履き替え、コートを着てマフラーを巻き、大きめの空のカバンを持って駅に向かった。
 あーもしかしたらもう駅ついたかもと思い、駅まで走った。
 駅に着いたら「駅ついたよ」と送る。既読がつかない。電話をしてみるが繋がらない。どうしたものか数分待ってみよう。
 数分後、まだ既読がつかないと周りを見てみると、沢山の人がホームへと繋がる階段から降りてきた。「あ、着いたかな」と思ったが、なかなか母の姿が見えない。次の電車まで待とうとしたら、母がなんでいるのみたいなほんの少し嬉しそうな顔をしてた。
 僕が「母さんお疲れ」と声をかけると、母は「えーっ迎えに来てくれたの?嬉しい」と答えた。「遅いしスーパー寄ってこ」と言う母を見てみると、二つの紙袋を重そうに右腕にかけていた。あー…荷物多いと思ってこの袋持ってきたんだけど早とちりか。でも紙袋重そうだし、二つとももらお。
 スーパーでちょうど売ってた焼売と、お刺身を買って帰った。お米は事前に炊いていた。いい感じに炊けててちょっと嬉しかった。




 予想していなかったお迎えに驚きと喜びが入り混じった表情を浮かべるお母さんの様子を書いた「母がなんでいるのみたいなほんの少し嬉しそうな顔をしてた。」の一文から、自分に向けられる小さな優しさにちゃんと向き合っているお母さんと、お母さんが喜んでくれていることをきちんと受けとっている主人公の関係性が感じられて、読む側も優しい気持ちになりました。
 また、「えーっ迎えに来てくれたの?嬉しい」から「遅いしスーパー寄ってこ」と言うセリフへの飛躍がとても好きです。ここは、迎えにきてくれたことに対する感謝なり、何か直接関係のある言葉を書きたくなるところですが、それがありません。二つのセリフの間に交わされたであろう笑顔や目線や仕草を想像することで、そこにある優しく幸せな瞬間がより豊かに感じられました。
 そして最後の「いい感じに炊けててちょっと嬉しかった。」の一文も心地よかったです。それまでのストーリーと関係なさそうに見えながら、日常の中のちょっとしたことに喜びを見つける主人公の心の動きは、そこまでに描かれたお母さんとの共通点であり、最後にもう一度親子の繋がりを感じさせてくれます。

 書くべき題材は身の回りにある。大きな出来事は必要ない。そんなことを改めて感じさせてくれる作文でした。そして自分が幸せであるかどうかは、自分がそれに気づけるかに掛かっているのだとも教えられました。

塾長

※学年は作文を書いてくれた時のものです。

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