絵を見て物語を作る

ナルキッソス

HARUTO. I.(中2)

「あー、またぐちゃぐちゃだ。」

 昨日の台風で、多摩川が氾濫した。河川敷に買ったグラウンドがボロボロになってしまった。僕は今、グラウンドの濡れた土の上に座って多摩川の表面を眺めながら、口を小さく開けてボソッと言った。僕は、

「修理代高いんだよなー。」

 と愚痴を吐きながら落ち込んでいる次第である。荒らされてしまったグラウンドの土に触れる。少し湿っている。この湿り具合が寂しさを表現しているような気がした。

「はぁ、どうすればいいんだろう。修理をしても、また氾濫で壊される。だけど、修理しないのは、グラウンドがかわいそうだな。」

 僕はどうすることもできないままグラウンドと多摩川に交互に目をやった。マイナスの気持ちが重なり合うため、辺りが暗く見える。今はまだ正午のはずなのに。闇の中へ吸い込まれていくような感じだろうか。重い空気が体全体にのしかかってくる。その度に潰れそうになる僕。

 しかし、周りの人々を見ると落ち込んでいるのは僕だけだった。神奈川サイドではBBQやパーティを楽しんでいる。東京サイドでは、いつもの人が楽器を吹いている。皆、楽しそうにいつもの生活を送っているのに、僕はいったいグラウンドの上にかがみ込んで何をしているのか。僕は濁った多摩川をじっと見つめた。




 今回はギリシア神話を題材にした「ナルキッソス」の絵を見てもらい、そこから自由に物語を作る、という課題でした。絵が描かれた時代や絵の主題などの情報は一切伝えずに、見たまま、感じたままに書いてもらいました。

 文章の内容は台風の被害を受けた後の大変な場面なのに、どこかユーモラスに感じてしまったのは、いかにも西欧風に見える絵の中の人物と多摩川という設定にどこかアンバランスさを感じたからでしょうか。生徒からは、そこがかえって面白いという意見もありました。もちろん課題を出す上で、絵の情報は事前に知らせていないので、設定が大きく変わっていることも仕方ありません。

 僕が最も惹かれたのは、HARUTO君がこの絵を描写した部分です。

「マイナスの気持ちが重なり合うため、辺りが暗く見える。今はまだ正午のはずなのに。闇の中へ吸い込まれていくような感じだろうか。重い空気が体全体にのしかかってくる。その度に潰れそうになる僕。」

 この部分の描写は素晴らしかったです。元々のストーリーを忘れて絵を眺めてみると、ここの記述が実にしっくりくるのです。ひょっとしたら、このような理由や背景があったからこそ、絵は暗く描かれ、主人公の姿勢も決められたのではないかと思ってしまうほどです。文章を読んだ後にこの絵を眺めていると、確かに主人公は重い空気を背に受け、潰れそうになるのを耐えるために手をついているように見えてきました。

 今回は、絵を見て感じるままに自由に書いてもらったのですが、HARUTO君は余計な情報に頼らず、自分の感性を使って書いてくれたことがとても嬉しかったです。

塾長

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

生徒の作文

次の記事

四旬節