トンネル
起:CHIAKI(高1)
「あっ、どうぞ。」
「ありがとお。」
「お姉ちゃんも一緒に遊ぼうよ。」
「えっ、あ。」
公園で2人の女の子に会った。5歳ぐらいだろうか。砂場遊びをしていた。スコップで砂を集めている。私は転がったバケツを取ってあげたのだった。突然の子供の無邪気な誘いに、私はどう返したら良いかわからなかった
承:KOTARO(大3)
まだ日が高いのに、元気に遊んでいる二人は疲れないのか少し心配になるくらいだ。リボンが色違いの、麦わら帽子を被ってせっせと山を作る。砂を集めると、少しだけ水をかけて固める。そしてまたそこに砂をかける。五歳の頃なんて、ほとんど覚えていないが、意外と賢いのかなと思った。
「お姉ちゃん、はやくきて」
水色のリボンをつけた子が言った。リュックを近くのベンチに置き、歩いて二人の元へ向かう。
「お姉ちゃん、はやく~!」
大きい声で呼ばれた恥ずかしさを隠すように、走って二人のそばに向かった。砂場に行くと、ピンクのリボンをつけた子に指示された。
「お姉ちゃんは、こっちね」
汚れないように、少しだけスカートの裾をまくった。見よう見まねで、砂を集めてはかけてを繰り返す。二人は、黙々とそれぞれの担当場所で同じ作業を繰り返す。
今日テストが終わったから、もう少しで夏休みに入る。だけど、別にそんなに嬉しくはない。授業がなくなるだけで、部活と塾を行ったり来たりする毎日は変わらない。
何のために、授業を受けて。
何のために部活に出るのか。
毎日同じことを繰り返して、それが、永遠に続くような気がしていた。
そんな毎日に、投げ入れられてしまったせいだろうか、小さい時の夢とか、高校生への憧れとかいつの間にか思い出せなくなっている。砂場の向こうに見える陽炎のようにゆらゆらと、歪んで消えてしまったのだろうか。
転:KOTA(大1)
部活も塾も最初は楽しかった、部活に行く時間が楽しみでたまらなく初めての体験が楽しくて、成長するのがうれしくて仕方がなかった。でも、いつからか成長をしなくなった、正確にはしているのかもしれないがその実感が全くわかない。
自分で望んで始めたことでもどんどんと嫌になっていく。長く、オレンジ色に光るナトリウムランプが足元を照らす先の見えないトンネルを私は歩いている。時々見える非常口の看板をたまに立ち止まって見つめてはまた歩き出す。そんな生活をしている。
「お姉ちゃんこれ見て!」
気が付くと二人の少女たちは大きな砂の塊を作っていた。凄いでしょ、と言わんばかりの顔をしながらそれを見せてくる。
「これはねー凄いんだよ!」
「そうそう、これからトンネルになるんだよ!」
必死に説明をしているが、いまいち意味が分からない。でも、楽しそうにしている太陽のような彼女たちの姿はとても微笑ましく感じた。
そのまま彼女たちは水で固まった砂の塊に勢いよく横から手を入れる。水を含んだ砂が一瞬空に飛び、太陽の光と混じり光りの粒が舞う。その後落ちた泥は地面でも光を含みながら鏡のように輝いていた。
ああ、とても綺麗だ。
結:RINKA(中2)
気がついたら涙がでていた。
なぜだろう。世界的なアーティストが描いた絵画でもなく、素晴らしく有名な著名人が作った作品でもないのに、心が震えたのだ。
「だいじょうぶ?ころんだの?」
私を心配しているつぶらな瞳がぼやけて見える。
「大丈夫だよ。お砂が目に入っちゃったみたい」
少し汚れた指で涙を拭った。
トンネルを覗くと、2人分の笑顔がみえる。
「あっ!おねえちゃんみっけ!」
たった小さな笑顔で私の心は温かくなった。
今、私が歩いているこのトンネルは、自分で作り上げてきたんだ。どこにたどり着いたとしても、後悔したくない。だから私は今もこの先もトンネルを掘っていく。
「トンネル」をテーマに書かれたリレー作文です。
屈託のない幼い子たちと、自分が思い描いていたような成長曲線を描けなくなってきた年頃の主人公の間にある、巻き戻せない時間や失ってきたものを思い切なくなります。同時に、書き手である生徒の皆さんの小学生時代を知る者としては、そういうことを理解している書き手自身の成長も感じずにはいられませんでした。ですから主人公が幼い子たちの純粋無垢な様を見て眩しく感じるように、僕はこの作品を書いた4人の若者をとても眩しく感じます。そして文章中に見える若い時代の苦悩さえもどこか美しく感じてしまいました。もちろん、そういう意図で書かれてはいないのですが。
トンネルのように先が暗く見えないのは不安だとは思うけど、実は見えないからこそ面白いのだとも言えます。いつかずっと先まで見えてしまった時、今よりももっと深い失望や諦めと向き合わねばならないかもしれません。もちろんそこが歓喜溢れるゴールであって欲しいと思いますが。
なんてことは授業では言いませんでした。今は迷いながらでも、躊躇しながらでも、進んでいく若い力を頼もしく思いますし、そのまま進んで行って欲しいと願う僕でした。
塾長